Institutional Repository of Kyoto Institute of Technology
Not a member yet
1100 research outputs found
Sort by
ハンドレイアップ複合材料成形における熟練技術の定量化に関する研究
京都工芸繊維大学博士(学術)国内におけるFRP用途別出荷動向調査および集計結果から、住宅機材向けが全体の約3割を占め安定的に推移していることが示されている。そして、その住宅機材向けの中でも大半がバスタブである。そのバスタブは主にSMC(Sheet Molding Compound)と呼ばれるガラス繊維を含んだ高温硬化型の熱硬化性樹脂シートを用いて高温プレス機で製造される。SMCは製造に関する設備費や運用費が大きくなるためコストアップが避けられず、大量少品種生産に限られている。また、製品の色はSMCそのものを着色する必要があり、顔料使用量が多くなるなどコスト抑制が難しい。 一方、消費者の多様なニーズに答えるため、全バスタブ生産量の約1割程度は少量生産を余儀なくされており、この少量多品種にはSMCのプレス成形では費用対効果の観点で適合しない。少量多品種向けに対してはハンドレイアップ(Hand Lay UP : HLU)成形法が古くから利用されている。これは型と技能と原材料さえ揃えば成形可能で、極めて原始的な成形方法であるが、成形型が安価で設備費も低いため、生産数量や大きさそして形状の変化に広く対応できる長所を有するためである。 しかしながら、HLU成形法の基本は「匠の技」であり、それは先達(せんだつ)から受け継いだ「勘」や「コツ」、手応え感や目くばり、そして熟練した動作というような暗黙知であり、技術の伝承に多くの時間を必要し、現在では効率的な技能伝承がなされていない。 そこで、本研究では、HLU成形法に加え、同様に匠の技を基本とするスプレーアップ成形法そしてゲルコート塗装における卓越した熟練技能の形式知化、定量化を目的とする。 本論文は、以下の7章で構成される。 第1章、緒論においては、研究の背景と必要性を述べた。 第2章ではHLU成形熟練者の卓越した技能を解明するため、作業工程分析を行い、熟練者以外は仕上工程に多くの時間を費やしていることを明らかにした。さらに、仕上工程における特に脱泡作業において、熟練者と非熟練者の作業時間および動作の差異が大きいことも明らかにした。そこで、脱泡作業に着目し、工程分析、動作解析および力の伝達解析を実施した。その結果、豚毛脱泡ローラー使用時における、注視点、肘の動き、重心の位置、ローラーの持ち方そして力の伝達方法の観点で熟練技能者の暗黙知を形式知化した。また、厚みの変動係数が経験年数に強く依存することも明らかにし、熟練者が成形した複合材料の寸法安定性の信頼性が高いことも確認できた。 第3章ではHLU成形法を用いたガラス繊維強化複合材料の物性評価について、経験年数に伴う複合材料の界面特性を微視的観点から述べた。熟練者が成形した複合材料の力学特性の信頼性が高いことが確認できた 第4章ではスプレーアップ成形熟練者の卓越した技能を観察することにより、吹き付け量やガン速度が一定であること、目的とする厚みに対して吹き付け量や塗装時間が計算値どおりに実施されていること、塗装時の厚みを繊維の嵩高さや樹脂量などの目視観察により適宜吹き付け量の調整を型とガンとの距離を変えることで調整していること、そして塗装折り返し点での厚み増加を防ぐために折り返し点にて実施している速度調整技術などの熟練技能者の暗黙知を形式知化した。 第5章ではゲルコート塗装における暗黙知を形式知化した。塗装時の水平方向および垂直方向のストローク速度が一定であること、水平方向および垂直方向のストローク回数が同じであることや身体全体を大きく伸展・屈曲させることで、上下の塗装を行うこと。ゲルコート塗装用ガンと型の距離が常に一定であることなどが明らかになった。 第6章では世界で初めて、炭素繊維とジュート繊維のスプレーアップによる成形に成功したことを述べた。特に、カット長が通常の25mmでは繊維の裁断性や開繊性に問題があったが、鋭意研究末、カット長を5mmにすることにより上記課題を解決しスプレーアップ成形が可能となった。さらに、スプレーアップ法による炭素繊維FRPはガラス繊維FRPに対して曲げ弾性率が44%、曲げ強度が53%高いことを示した。一方、スプレーアップ法によるジュートFRPでは、ジュート繊維の開繊性および分散性の向上により、高い力学的特性のFRPが創成される可能性を見出した。 第7章では本研究で得られた知見をまとめ、今後の展望について述べた。 本論文に示された成果は、HLU成形法の学習、熟練技能を有する成形ロボットの開発、そして新たな使用用途を探索する一助となり、HLU複合材料の普及促進につながるものと考えられる
Analysis of Expert Skills in Usual Lathe Chucking
京都工芸繊維大学博士(学術)生産設備のIT化が進む一方、実際の生産現場において汎用普通旋盤に関する技能は依然として重要視されている。当然、大量生産の現場にいてはNC工作機械などには及ばない。しかし、切削条件が定まっていない新素材の加工などにおいては、加工しながらそれら条件を見出す必要がある。従って、現在においても普通旋盤の技能伝承は重要であると言えるが、今なお生産現場における 技能伝承は非常に困難である。ところで旋盤とは、主に円筒状の部材を加工する工作機械であり、チャック部に固定された被削材をチャックとともに回転させ、刃(バイト)を被削材にあてることにより切削する。最も一般的に使用されるチャックは三つ爪スクロールチャックである。このチャックはチャックレンチを回すことでチャック内部のスクロールが回転し、3つのチャック爪が同時に 工作物を締め付ける構造となっている。これまで、熟練技能伝承の本筋とも言える加工方法に関する先行研究成果が多くあるが、加工の準備段階であるチャックによる被削材の締め付け動作・チャッキングについての先行事例は殆ど無い。しかしながら、チャッキング動作は、その後の加工工程において製品に与える影響を左右する重要な要因の一つである。そこで、熟練者と非熟練者のチャッキング動作について動作解析を行い、両者の差異から非熟練者に対する技能習得の早熟化のための提案を行う。 本論文は全6章で構成され、第1章では本研究の背景と目的を述べる。 第2章では、旋盤工歴70年を超える熟練者と旋盤加工の習得を目指す旋盤工歴1年未満の非熟練者の旋盤加工中の身体的動作について三次元動作解析装置を用いて調査した結果を述べている。 これまで旋盤加工の技術伝承に関する試みは存在するが、それらの多くはメインである刃物が被削材を切削加工する際の手順に関するものが多い。しかし、これらの試みはCNC旋盤や マシニングセンターなど自動機械を使用する際にはあまり有用ではない。しかしながら、被削材を取り付けるチャッキングにおいては、マシニングセンターを用いる場合においても被削材の取り付け力を指定しなければならないため重要な工程である。そこで、高齢の熟練者が適切な力で締付を行う技術について、締め付け姿勢を解析することで次の2点を明らかにした。(1)熟練者は無意識に荒加工から仕上げ加工において、大別して3パターンに姿勢を変化させている。一方、非熟練者は加工中のチャッキング姿勢がほぼ一定である。(2)3パターンの姿勢は、「旋盤に対する立ち位置」「チャックハンドルの持ち方」「チャックハンドルの回転に加える体の使い方」の3つのポイントで分類できることを述べる。 第3章では、2章で明らかとなった3パターンにおける「チャックハンドルの回転に加える体の使い方」について身体部位をどのように使いながら締付力を加えているのかを明らかにした。パターンⅠでは両肘を曲げ、身体の中心(背骨)を回転軸として腰・肩・肘を回転させて締め付けている。パターンⅡでは右腰を中心に左腰を押し出すように回転させ、それに準じて左肩・左肘がチャックハンドルを押すように締付力を加えている。パターンⅢではほぼ右手首によって締め付けていることを明らかにした。これらにより熟練者は腕力(筋力)で締め付けるのではなく、身体の回転軸の変化など身体の柔軟性を用いて締め付けていることが明らかとなったことを述べる。 第4章では、熟練者の締め付け姿勢の違いが締付力に及ぼす影響について検証した。すなわち、熟練者の3パターンの姿勢の違いは本人曰く、“無意識”であり、どのように使い分けているかわからない。そこで複数の学生に熟練者の3パターンの締め付け姿勢でチャック締め付けを行わせ、 それぞれの締付力を測定した。その結果、それぞれのパターンでの締付力は割合が最大発揮力に対して一定であり、熟練者は経験的に姿勢を変えることで被削材に加わる締付力を制御していることを明らかとした。 第5章では、熟練者と非熟練者の上腕の筋肉の使い方について筋電計を用いて解析した。その結果、熟練者においては握力と上腕の強さに影響を及ぼさないことが判った。また、非熟練者に比べて瞬間的に右肘を動かして締め付けていることが明らかとなった。 第6章では、本研究で得られた知見をまとめ、今後の展望について述べた。 本研究は汎用普通旋盤加工技術を取り上げ、三次元動作解析を用いて熟練者と非熟練者のスキル分析を行うことで、非熟練者に対する技能習得早期化を目的としている。これまでに熟練技能伝承に向けた加工方法に関する先行研究・分析は多くある。しかし本研究では、加工の準備段階であり、被切削材をチャックで旋盤加工機に取り付けるチャッキング動作についての解析を行っている。チャッキング動作はその後の加工工程において製品の品質に与える影響を左右する重要な工程であることから、本研究は熟練技能継承の実現に向けて非常に有意義であると言える。 また、熟練者の動作解析によって得られた無意識下での姿勢の変化を旋盤加工技術を持たない複数の被験者で再現し、熟練者が持つ見えない技術、暗黙知の存在を確認し解き明かしていることは大きな成果である。さらに本研究で得られた知見をタイの生産現場において如何に活用してゆくかについても検討がなされており、実際の生産現場における熟練技能伝承法の確立、また旋盤加工産業の発展の一助となることに大きな期待が持てる
「《主体性》概念を基軸とした日本近代化過程における《自己》造形に関する学際的研究」成果論集
本論集は、平成24年4月から3年間に亘って行なわれた基盤研究(B)「《主体性》概念を基軸とした日本近代化過程における《自己》造形に関する学際的研究」(代表者:伊藤 徹)の成果を集めたものである。論文14篇(内2篇は、他誌掲載のため、題目と掲載誌名などのみを記録する)と会合記録を内容とする。平成24年度科学研究費補助金助成基盤研究(B)成果論集 課題番号:24320023 研究代表者:伊藤,
Studies on the Development of Innovative Approaches for A Highly Stereocontrolled Construction of Structurally Diverse Fluoroalkene Skeletons
京都工芸繊維大学博士(工学)This thesis consists of five chapters. In Chapter 1 is referred the importance of fluoroalkene skeletons, together with general physical/chemical properties and availability of organofluorine compounds. In addition, precedent synthetic methods for the preparation of fluoroalkenes are presented. Chapter 2 describes an efficient chromium(II)-mediated reductive coupling reaction of various bromodifluoromethyl-containing molecules with aldehydes. It was revealed that the reaction proceeded very smoothly to afford the corresponding β-fluoroallylic alcohols in a highly stereoselective manner. It is particularly worth noting that (E)-β-fluoroallylic alcohols were exclusively given in the case of 3-(3-bromo-3,3-difluoropropanoyl)-2-oxazolidinone as a substrate, while (Z)-β-fluoroallylic alcohols were provided in the case of other substrates, such as 4-bromo-4,4-difluorobutylate, 3-bromo-3,3-difluoropropyl ether, and 1-bromo-1,1-difluoro-nonanes. Chapter 3 describes the unusual ring-opening reaction of gem-difluorocyclopropylstannanes, which were prepared via the radical hydrostannation of various gem-difluorocyclopropenes with n-Bu3SnH. Thus, on treating gem-difluorocyclopropylstannanes with MeLi, followed by quenching the reaction with various media, such as H2O, alcohols, carboxylic acids, and p-toluenesulfonamide, gave the corresponding β-fluoroallylic alcohols, ethers, esters, and amide in a highly Z-selective manner. Chapter 4 describes SN2’ substitution of β-fluoroallyl phosphates with organocopper reagents. It should be noted that various types of β-fluoroallyl phosphates reacted smoothly with various organoalkylcuprates, prepared from Grignard reagents, organolithium, organozinc reagents and CuCN, the corresponding terminal fluoroalkenes being obtained in a highly regioselective manner. Among thus obtained fluoroalkenes, fluorinated 1,7-dienes underwent a smooth ring-closing metathesis under the influence of Grubbs catalyst, providing the corresponding fluorinated cyclohexenes in high yields. In Chapter 5 is summarized the discussion in each chapter
Structure and Properties of the Electrospun PLLA/PDLA Blend Nanofibers
京都工芸繊維大学博士(工学)溶液および溶融電界紡糸法によりポリ(L-乳酸) (PLLA)とポリ(D-乳酸)(PDLA)のブレンドナノファイバーを作成し、得られた繊維の高次構造とステレオコンプレックス結晶(SC)の発現性に対する電界紡糸条件と巻取り速度との影響について調べた。分子配向、結晶配向によりSCの形成は促進され、さらに繊維径の縮小に伴いSCの形成は顕著となった
木質系材料の流動・自己接着特性を生かした成形加工に関する基盤技術の開発
京都工芸繊維大学博士(工学)持続可能な社会の構築に向けて未利用の木質系資源を有効活用していくためには,木質系材料から効率的に任意形状部材を成形できる技術を確立し,その利用用途を拡大していく必要がある.本研究では,木質系材料の成形加工に関わる問題を解決するため,「蒸煮処理による素材の改質」および「金型および成形プロセスの最適化」の観点から,木質系材料の成形性向上および成形難度低減を目的とした研究を行った. その結果,蒸煮処理によって改質した木質系粉末の流動特性を明らかにした.また,最適条件下で素材に蒸煮処理を施し,流動・自己接着特性を最大限に引き出すことで,射出成形できることを示した.さらに,金型表面状態の制御および木質系材料の鍛造加工法の開発により,金型・成形プロセス最適化の観点から木質系材料の成形難度を低減させる方法を提案した
A STUDY ON THE FRACTURE BEHAVIOR AND THE MECHANICAL PROPERTIES OF UNIDIRECTIONAL CARBON FIBER REINFORCED COMPOSITES
京都工芸繊維大学博士(学術)繊維強化プラスチック材料は、その優れた機械特性や耐久性、そして軽量性を有することから多くの産業分野において約数十年間にわたり改良・改善を行いつつ使用されてきた。その用途分野としては航空機やスポーツ用品、住宅・住宅設備、ライフライン等のインフラ設備、造船、そして自動車などを代表とする様々な分野がある。また特に西暦2000年以降においては環境問題とりわけ「CO2排出による地球温暖化」についての抑制策、改善策への意識と行動が世界的に浸透してきたことからCFRP材料への期待は非常に大きくなり、それらの開発においても加速レベルが大きく変化した。 しかし、その特性は優れ、多くの期待を集めているものの、普及率においてはまだまだ限定的な状況となっている。その理由は大小様々であるが、原材料の供給能力が少なく大規模分野への適応の可能性が不明であること、それぞれの製造工程・加工工程において基準となる製造方法・加工方法が明確で無く開発要素が多いことから全体的にコスト高となること、併せて2次加工/3次加工工程・設計工程などが非常に複雑で未成熟なこと、などが挙げられる。 本研究は基礎的なプリプレグ材料およびフィラメントワインディング成形品において、その破壊挙動を調査することでそれら製品の開発段階で用いることが可能な指標およびその調査方法を確立し、開発の効率化や生産管理の効率化などを可能にすることで、今後の複合材料の発展に寄与することを目的としている。 第一章では、基本的な事象や背景と目的および本論文の構成について説明した。その上で本研究内で用いる材料である、一方向強化材の破壊挙動と力学的特性を検討する必要性も述べた。 第二章では、炭素繊維強化複合材料の熱可塑性材料および熱硬化性材料の積層板材の製造について詳細を述べた。開繊加工技術が用いられ炭素繊維を用いているため、粘度の高い熱可塑性樹脂でも含浸を良くすることができる。ポリアミド6(PA6)を用いた熱可塑性複合材料とエポキシ樹脂を用いた熱硬化性複合材料の加工方法を例として、積層板材の製造方法について説明をした。 第三章では、炭素繊維/PA6樹脂と炭素繊維/エポキシ樹脂の一方向強化材において引張試験、曲げ試験を行い、力学的特性の把握を行うとともに大標本の試験結果により、力学的特性のバラツキも論じた。炭素繊維/エポキシ樹脂の積層板材では強い界面と低い破壊靱性を有し、炭素繊維/PA6樹脂の積層板材が有する一方向の繊維配向内では相対的に弱い界面と高い破壊靱性を有している事が確認できた。 第四章では、炭素繊維/PA6樹脂と炭素繊維/エポキシ樹脂の双方の引張試験後の一方向強化材試験片において繊維配向、界面特性、マトリクス樹脂の破壊靱性と破断面の関係を明確にした。破壊モードは、ブラシ形状の破壊モードであるスプリッティング形状と階段形状の破壊モードステップライク形状の二つの破壊モード分けることができた。また、ブラシ状サイズの分析を行う事でスプリッティング形状には、二種類存在することを明らかにした。さらには曲げ試験における破壊モードにおいては、シングル破壊モードとダブル破壊モードの二つを観察できた。 第五章では、界面特性の研究として炭素繊維強化積層板材において90度引張試験と90度3点曲げ試験を行い、45度引張試験も実施した。これらの結果を踏まえてSEM観察を行ったところCFRP積層板材の界面特性はそれらの機械的特性や破壊挙動に不可欠な影響を与えている事を確認できた。 第六章では、炭素繊維/炭素繊維および炭素繊維/アラミド繊維などのフィラメントワインディング成形円筒構造材の破壊挙動とエネルギー吸収性能に関して検討を行い、特にハイブリッド材料を含む層構成の違いと熱処理の影響について検討した。その結果、高いエネルギー吸収性能が得られ、それを実現する破壊モードを特定することができた。これにより、自動車用途への応用が可能であるとことを示した。 最終章の第七章では、各論文の其々の結果等を踏まえて最終的な総括をした
非線形波動変調に基づく構造物損傷の位置推定に関する研究
京都工芸繊維大学博士(工学)本研究は,非線形波動変調に基づく構造物損傷の検知と位置推定に関する研究である.非線形波動変調とは,粗面同士の接触界面が微小な相対運動を行うことによって,界面に入射する弾性波動の散乱特性が変化し,その結果,散乱波動場が変調を呈する現象である.き裂,はく離した接着面,緩んだボルト締結部などは粗面同士の接触界面を伴うため,これらの損傷を有する物体に高周波波動(プローブ波動)を入射すると同時に,低周波振動(ポンプ振動)を与えると接触面が動き,高周波波動に変調が生じる.この変調を評価することによって損傷の有無と程度を捉えようとするのが非線形波動変調法である.しかし同手法では損傷位置の推定を行うことができなかった.本論文でははり構造物を対象として,同手法を基礎とする二つの新たな損傷位置検出手法を提案した. 第1章では構造物の保守点検の現状を述べた後,非破壊検査技術と構造ヘルスモニタリングに必要な技術とそれに関連する既往研究を示した.また,接触界面の非線形性に着目した損傷位置推定の既往研究に関してまとめ,本研究の目的を示した. 第2章では,打音検査の高機能化を図ることを目的として,ポンプ振動としてインパクトハンマ加振による振動を用いた損傷位置推定手法を提案した.初めに,打音検査の概要と問題点を示し客観的指標に基づく損傷位置検出および評価手法の必要性を述べた後,非線形波動変調に基づく損傷位置推定の有用性について論じた.ティモシェンコはり理論にのっとった振動計測から構造物を伝播する波動成分を推定する波動分離法について説明した後,インパクトハンマ加振によって単一の正弦波で構成されるプローブ波動に生じる変調を復調した波動場の伝播理論を構築し,構築した理論に基づき損傷の両側に存在するセンサアレイに復調波動が到達するまでの時間差と群速度で表される損傷位置推定式を用いた損傷位置推定手法を提案した.また,はり試験片に模擬損傷を設けた実験装置を用いた実験により精度よく損傷位置推定が可能であることを示した. 第3章では,過去の非線形波動変調現象に基づく損傷検知手法では事前に調査が必要であったプローブ波動の周波数選択作業の簡略化を目的として,広帯域高周波波動をプローブ波動として用いた損傷位置推定手法を提案した.複数の共振周波数を内包する広帯域高周波波動を用いることでプローブ波動の周波数帯域の時変波動伝達関数を短時間フーリエ変換により推定する.分散関係に基づき周波数領域から波数領域の記述に変換し短時間逆フーリエ変換することで反射強度の空間―時間マップが得られる.得られた反射強度の空間―時間マップより反射強度の空間分布に生じる反射強度のピークとして損傷の位置が求められ,損傷位置における反射強度の時間変動の周波数解析をすることで損傷が面接触を有する損傷であるかを判別することができる.時変波動伝達関数を推定する際に必要な平均化手法について述べたのち,単一の模擬損傷を設けたはり試験片を用いた損傷位置推定実験の結果,固定端境界位置における反射強度の時間変動は低周波成分に同期せず,接触面を有する損傷の位置における反射強度の時間変動がポンプ振動に同期して変動することを示した.次に,複数の模擬損傷を設けたはり試験片を用いた損傷位置推定実験の結果,センサアレイに最も近い損傷位置を推定することができたが,背後に存在する損傷の位置推定は困難であることを示した.これは,本手法で推定した反射強度の空間―時間マップが一度の反射のみを考慮したものであることが原因である. 第4章では,インフラ構造物において最もよく用いられている部材接合法のひとつであるボルト継手に関して,非線形波動変調現象によって生じる反射強度の時間変動に基づき健全性を評価する手法を提案した.初めに,振動環境下においてボルト緩みが生じる問題について述べたのち,反射強度の時間変動に基づく損傷評価指標を定義し接触面を有する損傷の健全性評価手法を構築した.複数のボルトにより構成されるボルト継手を一つ設けたはり試験片を用いた締付トルク管理による健全性評価実験を行い,センサアレイに最も近い位置のボルトが過剰締付トルクと過少締付トルクの場合に損傷評価指標が上昇することを確認した.一方,提案した損傷評価指標はセンサアレイからみて遠い位置にあるボルトの締付トルク変化には鈍感であった.これは第3章で論じたと同様に,本手法が一度の反射のみを考慮したものであるためであり,ボルト継手を構成する複数のボルトの位置すべてがプローブ波動の反射点になるためセンサアレイに近い位置のボルトの反射強度のピークによって遠い位置のボルトの反射強度のピークが消されてしまったことが原因である. 第5章では本論文の各章で得られた知見をまとめ,今後の展望について述べた
高齢者における体内水分量変位モデルの構築とその応用
京都工芸繊維大学博士(工学)本研究では高齢者における一日の体内水分量変位モデルを構築し,適切なタイミングでトイレや飲水を提案する手法について検討し,高齢者の外出をサポートする水分管理補助システムを提案する.このシステムはユーザの外出の予定に応じて予め計算した飲水やトイレ休憩のタイミングを計算し,外出中の水分摂取やトイレ,気温の変化などの状況変化(コンテキスト)に応じて動的に変更する.更にユーザの買い物や観劇など外出の主たる目的の妨げにならないよう,そういった予定を避けるよう考慮することや予告的な通知を事前に発する段階的な通知方法を用いている.本論文では医学,生理学,介護の知見を元にシステムの根幹となる体内水分量モデルを構築し,モデルを用いた体内水分量予測式の妥当性を評価し,システムに適した通知方法を検討し,最終的に構築したシステムの有効性を評価する