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京友禅染における糊置工程に関する研究
京都工芸繊維大学博士(学術)日本で着物を染色する方法には、友禅染、絞り染、藍染、蝋染などがある。このうち最も広く使われる染色方法は友禅染であり、その中でも京都で染色された着物は特に「京友禅染」と呼ばれ、伝統的工芸品に指定されている。京友禅染は、10工程から構成される。第1工程は、「下絵」である。下絵は、高い芸術性を持った意匠や図柄を絹布に描く工程である。第2工程は「糊置」である。糊置は、下絵に描かれた図柄の線に沿って忠実に防染糊を置く工程であり、糊の外側と内側に異なった色を用いて染色した場合、お互いの色が混ざらないために行われる。和装産業界では、糊置の出来栄えはその後の工程に大きな影響を及ぼすといわれている。糊置に用いられる材料のほとんどは、でんぷん糊とゴム糊である。でんぷん糊はゴム糊よりも粘度が高い。でんぷん糊を用いて作製される着物はゴム糊を用いて作製される着物よりも、「はんなり」として良い出来栄えであると評価され、高価であると認識される。はんなりは京都の方言であり、やわらかさや上品な様を表す言葉として使われる。糊置工程に関する研究や糊置の出来栄えが着物の評価に及ぼす影響についての報告は、未だにされていない。 一方、和装産業界では、ライフスタイルの変化とともに着物の生産数が減少しており、職人数も減少している。職人技術の伝承が困難になりつつある。特に糊置工程は、他の工程に比べて地味な工程であるため、志望者が少なく、職人技術の継承が困難である。すべての糊置職人はゴム糊を扱うことができる。一方では、一部の糊置職人しかでんぷん糊を扱うことができない。したがって、でんぷん糊を用いた着物の生産数は限られる。もしもゴム糊だけが使われるならば、はんなりした良い着物は作られず、着物の品質は低下する。糊置の代わりに「型紙」が使われるならば、数多くの多彩な図柄は用いられない。消費者が品質のよい着物を求めているのにもかかわらず、和装産業界は、消費者の需要を満たすことができない。 そこで本論文の目的は、でんぷん糊とゴム糊が染色に及ぼす影響と、でんぷん糊とゴム糊を用いて染色された着物によって与えられる印象の違いの原因を明らかにすることとした。本研究の成果は、糊置技術の伝承が不可能になった場合においても、でんぷん糊と同じ防染効果を発揮する他の材料の開発につながり、品質のよい着物の生産を可能とするために、非常に重要な研究と考えている。 本論文は、第1章の緒論から第6章の結論までの6章構成である。以下に第2章以降の目的と内容について簡潔に記述する。 第2章では、でんぷん糊とゴム糊を使って染色された着物の印象評価を目的に、京都の方言で「やわらかさ」や「上品さ」という意味で使われる、京友禅染の着物を評価する「はんなり」という言葉と、6つの感性評価項目(シャープさ、上品さ、明るさ、温かさ、豊かさ、深み)を使って、アンケート調査を行い、5件法で回答を求めた。その結果、従事形態別、男女別、従事者の経験年数別にかかわらず、でんぷん糊はゴム糊に比べて、はんなり、上品さ、温かさ、豊かさ、深みの項目が高く、ゴム糊はでんぷん糊に比べて、シャープさ、明るさの項目が高くなった。染色する際、ゴム糊ではなくでんぷん糊を用いることで、よりはんなりした着物に仕上がることが明らかとなった。 第3章では、でんぷん糊とゴム糊との作業効率を検討した。でんぷん糊とゴム糊を使って糊置を行なう作業時間を計測するとともに、糊置の動作解析を行なった。その結果、でんぷん糊はゴム糊よりも作業時間がかかり、でんぷん糊は使われると、糊置の速度は一定ではないことが明らかになった。でんぷん糊は、ゴム糊に比べて、糊置を行う時間がかかり、でんぷん糊の扱いは難しいことが示唆された。 第4章では、でんぷん糊とゴム糊の防染効果の差が京友禅染に及ぼす影響の解明を目的に、でんぷん糊とゴム糊の粘度の違いを明らかにするとともに、でんぷん糊およびゴム糊を用いて染色された製品の断面を観察し、でんぷん糊およびゴム糊の繊維への浸透性を評価した。その結果、でんぷん糊はゴム糊よりも約30倍高い粘度を持つことが明らかになった。断面観察の結果、でんぷん糊はゴム糊よりも繊維束に浸透せず、防染力は弱いことが明らかになった。さらに、表面画像を二値化した画像解析の結果、染色された箇所とでんぷん糊によって防染された箇所の境界は、ゴム糊によって防染された箇所の境界に比べて、約8倍ばらついていることが明らかになった。でんぷん糊とゴム糊の防染糊が除去後の跡と、地色として染色されている箇所の境界のばらつき度合いの差が、着物の印象評価の差に影響を与えていることが示唆された。 第5章では、でんぷん糊とゴム糊を用いて染色された着物によって与えられる印象の差異を明らかにするために、印象評価アンケートを実施した。でんぷん糊とゴム糊が売価に及ぼす影響を明らかにするために、価格評価アンケートを実施した。さらに、印象評価と価格設定の関係を明らかにするために、統計を用いた解析を行った。因子分析の結果、「上質感」と「鮮明感」に分類することができた。でんぷん糊は上質感得点が高かった。一方、ゴム糊は鮮明感得点が高かった。価格設定の評価の結果、でんぷん糊はゴム糊よりも高い価格に設定されることが明らかになった。さらに、価格を決定する要因は、でんぷん糊の上質感であることが明らかになった。 第6章では、本研究で得られた知見をまとめ、今後の展望について述べた
炭素繊維強化組物複合材料の構造と特性に関する研究
京都工芸繊維大学博士(学術)組物は、すべての繊維束が連続して配向することから、強化形態においてすべての繊維束に荷重が伝達され、優れた力学的特性を発揮すること、また、繊維束の配向角度を自由に設定でき、かつ、途中で変更することも可能なこと、形状の付与の自由度が高いことなどから、要求性能に応じた複合材料構造部材を作製することが可能であるという特長を有している。このため、さまざまな産業分野において適用可能であるだけでなく、軽量、高剛性、高強度であることから、高度な省エネルギー社会や持続可能な社会の構築に有用性が高いといえる。 この組物複合材料の設計にあたり、内部構造を制御する必要がある。組物は、組角度、繊維束間距離、繊維束断面形状および繊維束断面積の四つの内部構造パラメータによって内部構造が決定されることがこれまでの研究により明らかにされている。しかし、各パラメータは独立ではなく、相互に影響を及ぼしあうため、要求性能に応じた組物複合材料の内部構造や剛性等をあらかじめ予測することは難しい。このことにより、組物複合材料の設計が困難なものとなっており、結果として組物複合材料の普及を阻んでいる状況にある。 そこで本論文では、炭素繊維強化組物複合材料の内部構造を決定するパラメータの相互関係を明らかにしたうえで、同パラメータの予測手法を考案した。さらにその手法を用いて組物複合材料の構造設計および剛性設計を可能とする基本的な方法を確立した。また、考案した組物複合材料の剛性予測手法を適用した場合の妥当性について、実際の組物複合材料円筒と比較、検証をおこなった。加えて、組物複合材料のさらなる応用を考え、構造とエネルギー吸収特性との関係を明らかにしたほか、組物複合材料とMFW(Multi Filament Winding)複合材料の比較をおこない、両者の特徴および組物複合材料の利点を明確化し、組物複合材料の機能設計に資する知見を得た。このように、組物複合材料の構造設計から剛性設計に至る一連の設計手法を確立するとともに、機能設計まで視野に入れた組物複合材料の設計に関する方法論を示し、組物複合材料の普及を促進することを目的としたものである。 第1章では、研究の背景と必要性を述べた。 第2章では、断面観察により、実際の組物複合材料の内部構造パラメータの相互関係を明らかにするとともに、内部構造パラメータの相互関係の予測手法を考案した。 第3章では、第2章で考案した内部構造予測手法をもとに、組物複合材料の厚さを予測する手法を考案した。また、組物複合材料円筒を作製し、それらの内部構造パラメータおよび厚さの実測値と、それぞれの予測手法に基づく予測値の比較をおこない、実際の組物複合材料の設計におけるこれら手法の有効性を確認した。 第4章では、第2章で考案した内部構造予測手法により得られる内部構造パラメータの値をもとに、解析により組物複合材料の曲げ弾性率を予測し、組物複合材料の剛性設計を可能とする手法を考案した。また、組物複合材料の構造の違い(組角度、中央糸の有無、断面形状)と力学的特性の関係を明らかにした。 第5章では、組物複合材料とMFW複合材料について、力学的特性、賦形性および生産性を比較し、複合材料強化形態における組物の有効性に関する知見をとりまとめた。 第6章では、組物複合材料のエネルギー吸収特性に及ぼす構造および母材樹脂の影響を明らかにした。 第7章では、本論文の各章に示された結論をとりまとめた。 本論文に示された成果は、組物複合材料の設計に関する共通的な手法を与えるものとして、さまざまな利用分野に適用可能であることから、組物複合材料の設計に大きく貢献し、組物複合材料の普及促進につながるものと考えられる
Effects of additives on crystallization of ZnO-Al2O3-SiO2 glasses
京都工芸繊維大学博士(学術)Glass ceramics are used worldwide nowadays and transparent glass ceramics are especially desired due to their excellent characteristics which is the combination of the good formability of glass and excellent optical properties of ceramics. To produce transparent glass-ceramics, smaller crystal sizes than the wavelength of visible light is required for preventing light scattering. For this purpose, glasses showing volume crystallization are desired. For such glasses, the size of crystals can be controlled by the number density of nuclei because the growth of crystals is hindered by the other crystals around them. For this purpose, some nucleating agents (such as TiO2, ZrO2, etc.) are used to increase the number density of nuclei. High processing temperature (>1550 ℃) is required to melt ZnO-Al2O3-SiO2 (ZAS) glasses; therefore, it is desired to lower the processing temperature by using some additives as a flux. In this research, 20 mol% of ZnO, 20 mol% of Al2O3, and 60 mol% of SiO2 was chosen as a base glass, and the effects of additives (such as B2O3, GeO2, alkaline metal oxides, alkaline-earth metal oxides) on the crystallization behavior of ZAS glasses after nucleation heat-treatment (NHT) at various temperatures for 24 hours were investigated by DTA and XRD measurements. There were three main studies as following; First study is about the effect of glass-formers addition on the crystallization behavior of this glass system. This study is composed of two chapters; In chapter 2, the effect of B2O3 addition was discussed. The change of appearance of glass, dependence of crystallization peak temperature on nucleation heat-treatment (NHT) temperatures, the effect of B2O3 on crystallization behavior, were investigated. In chapter 3, the effect of GeO2 addition on the crystallization behavior was studied and the production of transparent glass-ceramics was tried. In addition, the results of this research will compare with B2O3-added glass (Chapter 2) Second study is about the effect of HfO2 on the nucleation of ZAS glass. This study has one chapter. In chapter 4, we investigated the effect of HfO2 as a nucleating agent which is the same chemical group as Ti, Zr. Third study is about the effect of alkaline-earth metal oxides (CaO, SrO, BaO) on the crystallization behavior of this system. This study is composed of two chapters as following; In chapter 5, the effect of alkaline and alkaline-earth oxide addition on the glass-formation and the change of crystallization mechanism of this glass system were studied. In chapter 6, the crystallization mechanism of ZAS glasses containing alkaline-earth metal oxides was investigated. In conclusions, in ZAS glasses, the addition of Li2O affected to the precipitation of the main crystalline phase and it made the lowest crystal growth rate among all of alkaline metal oxide addition; however, glasses could be formed when alkaline-earth metal oxides were added. To produce the transparent glass, the addition of GeO2 with TiO2 was the most effective to accelerate the number densities of nuclei, so the sizes of crystal became lower than 20 nm. It was found that the addition of GeO2 is the best for the production of transparent glass-ceramics in the ZnO-Al2O3-SiO2 glass system
A Flexible Shophouse Design Approach to Creative Community Regeneration
京都工芸繊維大学博士(学術)Bangkok has confronted a number of urban problems due to its sprawl development. This study, then, seeks an indigenous and global approach to amend the urban problems. As one of the local and common mixed-use buildings, the Bangkok shophouses are selected. It aims to revise its flexible building potentials to initiate an alternative urban regeneration via the Flexible Design, Open Building, and Creative City. The study advocates the flexible shophouses building potentials together with the flexible design method can offer an opportunity for diversity of usages and groups of people to improve the quality of living of shophouse community in Bangkok. The study is divided into 3 parts: 1) the degree of shophouse flexible conditions to address the possibility of shophouse diversity and adaptation; 2) the method of design and evaluation of “Support” design and its application through voluntary Thai architects; and 3) the possibility of application of adaptive shophouses for creative city through the international workshop. The results reveal that the flexible factors impact the degrees of building adaptation, especially, finance and installation factor are the most impact. The study of degree of physical adaptation assists to identify the support-infill components for the shophouse support design. The shophouse support application and method are also positively accepted; however, the method and proposed support components require further improvements to increase architects’ creativities and more comfortable application. Furthermore, the results from the workshop based on the Creative City approach reveal the shophouse potentials can promote shophouse creative community. In order to encourage the idea, the flexible factors and design approach, and Open Building concept should be disseminated in educational institutes and building construction fields. Moreover, the building regulations for flexible design consolation, precast construction system, DIY concept, are necessary and promoted
高品位介護の実現に向けた総合的研究
京都工芸繊維大学博士(学術)高齢者人口の増加が深刻化している我が国では、生産年齢人口減少による「社会保障費」など社会資源に関する問題や、「離職」「潜在ヘルパー」など人材不足に関する問題が指摘されている。政府も解決に向けて、社会保障費を抑えていく施策を検討しているが、反発も多く実現できる可能性は低いと言われている。また、女性の社会進出などを検討しているものの、課題解決にまで至っていないのが現状である。 本論文では、これらの課題解決に向けて、今後役割が増すことが予想されている有料老人ホームにおいて、これまでの社会を支えてきた高齢者に対して、安心・安全な住まいを提供するため、匠が生み出す高品質な製品を支える技・コツ・見極めを、従来無形であった介護サービスを可視化し、質の高いサービスを提供することを目的とした。 本論文は、以下の7章で構成される。 第1章の緒論では、研究の背景と問題の所在および研究の目的を述べた。 第2章では、介護職員の「疲労」に着目し、作業前後における疲労の自覚症状について質問紙調査を実施し、介護作業における疲労の特徴について検討を行った結果、有料老人ホームの介護職員における疲労の特徴として、日勤夜勤とも、ねむけ感、だるさ感が高くなる「一般型」に類似することが認められた。また夜勤業務の疲労類型を分類したところ、特別養護老人ホームでは「精神型」、有料老人ホームでは「一般型」と評価された。特別養護老人ホームより有料老人ホームの方が医療依存度および介護度が低く、日勤と比較して人員が手薄になる夜勤業務においては、状態が急変しやすい利用者が多いため、常に緊張状態であることから精神的な負担が多いと推測される。したがって、有料老人ホームでは、精神的疲労が特別養護老人ホームに比べ少ないことから、オペレーションの見直しを含め、より夜勤者が疲労しにくく働きやすい環境を整備していくことの重要性が明らかになった。 第3章では、入浴介助業務における疲労の度合いと特徴について解明するために、入浴介助の作業前後に質問紙調査を実施した。その結果、「入浴介助業務負荷」から「負担感」への効果が高く(β=0.20)、入浴介助の負荷軽減が重要であることが確認できた。また、浴室の温度や脱衣所の広さなどの「作業環境」が入浴介助の疲労度に影響していることから、浴室の作業環境を改善させることで介護スタッフの負担を軽減できる可能性が示唆された。 第4章では、実際の入浴介護現場の43分58秒にわたる映像を専門職の目で分析した結果、8ケースの危険箇所を抽出できた。危険箇所の特徴の類型化によって、入浴介助者の視野方向や介助者同士のコミュニケーションなどの原因が明らかとなった。これらの知見に基づき、状況に応じた回避方法に応じたマニュアルを作成することによって、安全に入浴介助を行うステムの構築の可能性が確認できた。 第5章では、有料老人ホームを運営していく上で重要な指標である「離職率」「稼働率」に影響を与える要因を検討した結果、離職率は「開設後の月数」、「会社共感・満足得点」、「従業員の心がけ行動得点」の3つの変数で有意な標準化回帰係数が得られ、会社の組織風土が職員の定着に関連することが明らかとなった。また、平均介護度が低いほど稼働率が高い値であり、経営の観点からも入居者の介護度を下げる取り組みの重要性が確認できた。 第6章では、入居者参加型の音楽レクリエーションを実施する上で必要なスキルを分析し、非熟練者へ技能伝承する方法について調査した。その結果、熟練者の特徴的なスキルとして、歌と歌の間で入居者とのコミュニケーションをとり、次の歌の準備を効率よく行っていること、また、入居者の表情などを観察し、必要に応じて声掛けやボディタッチを行い、音楽や曲調を変えたりする等、状況を確認しながら多くの音楽を演奏していたこと等が抽出された。このような音楽レクリエーションに必要なスキルを活用し、入居者のニーズを汲み取り、必要に応じて様々な対応を行うことにより、音楽レクリエーションのパフォーマンスの質が向上する可能性が示唆された。 第7章では、本研究で得られた知見を従業員および顧客の観点から整理し、今後の展望について述べた。 本論文に示された成果は、有料老人ホームにおける従業員の勤務環境の改善、管理・運営上の知見、新たなレクリエーション法の開発に寄与するものであり、持続可能な有料老人ホーム運営に繋がるものと考えられる
ポリウレタンを用いた界面制御による複合材料の機械的特性に及ぼす影響の研究
京都工芸繊維大学博士(学術)繊維/マトリックス樹脂界面の接着強度は複合材料の力学的特性に大きな影響を与えると言われている。ガラス基材に対する力学的特性を向上させるために、機能性界面相の導入の検討を行い、重要なポイントとして、厚さ、傾斜構造を形成させることに着目した。界面相としてゴム状の柔軟性特性を有し、代表的なマトリックス樹脂(エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂)と相溶性の良好なポリウレタンに着目し、無機繊維基材に対する表面処理剤として提案した。ポリウレタンは機能性界面相として傾斜構造を形成させるに適する大きな可能性を有しており、複合材料の機械的特性改善に効果的な適用方法について検討を行ったものである。また、一般的には複合材料を形成するのにシランカップリング剤が適用されており、薄層で化学的な界面接着要素での強度向上が通例化しているが、本研究では、上述のような特性を有するポリウレタンを界面相に適用することにより、ハイブリッドで傾斜構造を形成させ機能性を付与させる効果について検討を行った。界面相を形成させることにより、界面相を通じて3次元的に力学的特性を向上させ、複合材料の力学的挙動が制御可能であることを提案するものである。 以下に各章で得られた主な結果を示し本論文のまとめとする。 第2章では、熱可塑性エポキシ樹脂をマトリックス樹脂として選定し、ガラスクロスに対し表面処理することで仮想界面を形成させ、複合材料の機械的挙動に与える界面相の影響について検討を行った。結果、表面処理を付与した複合材料は機械的特性が向上する傾向が見受けられ、動的粘弾性測定からでは界面相の存在により粘弾性挙動に特性差が現れることがわかった。しかしながら、マトリックス樹脂と同一の樹脂で表面処理を行っても大きく機械的特性を向上させることができないこともわかった。 第3章では、界面相と繊維/樹脂を結びつける手法として界面相にポリウレタンを適用し、柔軟性かつ相溶性のある界面を作り、界面特性を向上させることを検討した。界面相に傾斜構造を意図的に形成させ、得られた複合材料に与える機械的特性変化について検討を行った。結果、ポリウレタン樹脂を表面処理剤として繊維基材表面に処理すると、樹脂含浸性が向上し未含浸部分の発生を抑制する効果があることや界面相の層厚みが厚くなるにつれて界面相に柔軟性が生じ、力学的特性が変化することがわかった。動的粘弾性からでは、tan δの波形がブロードな波形を呈したことから、ピーク幅と引張強度に相関性があることがわかり、このことから界面相に緩和構造が現れている状態が示唆された。 第4章ではマトリックス樹脂を不飽和ポリエステル樹脂に変えた場合にも適合性を有しているかの検討評価を行った。結果、ポリウレタンで表面処理を行った複合材料について、力学的特性が向上する傾向を呈した。動的粘弾性測定から、界面相の相違が明確にわかる波形を得ており、不飽和ポリエステル樹脂の場合でも、界面相に緩和構造が現れている状態が示唆された。 第5章では、第3章、第4章での検討結果から界面相に傾斜構造を持たせることで、複合材料の力学的特性を大きく向上させる効果を発現させたことを受け、界面相に複合した傾斜構造(ハイブリッド傾斜構造)を形成させた複合材料の力学的特性について検討を行った。結果、力学的特性改善効果は界面相の傾斜構造が大きいほど界面相にかかる応力を分散させていることが動的粘弾性測定結果からわかった。ハイブリッド界面相を形成させることで複合材料の力学的特性を制御できることがわかった。 第6章では、ポリウレタンにて表面処理した界面相を有するガラス繊維基材を積層させた複合材料の力学的特性に及ぼす効果について検討を行った。その結果、表面処理未処理の複合材料と比較して、積層した場合においても樹脂含浸性が向上していることが確認できた。引張特性に関しては、強度面において、大きく向上させるのに寄与していることがわかった。衝撃試験の比較から、より大きな衝撃耐性を示したことから積層させた場合においても傾斜構造を有する界面相を通じて、マトリックス樹脂と繊維基材が相溶性の良さの影響で3次元的な拡散構造を呈している状態がわかった。 第7章では、本研究で得られた知見をまとめ、今後の展開について述べた
医療用グローブのフィット感と操作性に関する研究
京都工芸繊維大学博士(学術)医療現場での感染予防対策は非常に重要な課題であり、感染対策のための標準予防策(スタンダードプリコーション)が定められている。スタンダードプリコーションでは、「患者の血液・体液や患者から分泌及び排せつされる全ての湿性生体物質(尿・痰・便・膿など)は感染の恐れがある」とみなし、湿性生体物質に触れる可能性のある時は、手袋・ガウン・マスクなどの個人防護具を使用するとしている。個人防護具の中でも直接感染源に触れるのはグローブのみであり、個人防護具の中でも特に重要であるといえる。また、スタンダードプリコーションはすべての患者及び医療従事者に応用される感染予防対策であり、医療従事者はグローブを着用して様々な施術を行わなければならないが、その施術には当然、安全で確実な技術が求められる。本申請論文では医療現場の感染予防対策において重要な役割を果たすグローブの操作性に着目し、グローブの操作性にかかわる要因を分析し、操作性の良いグローブの選択指針の構築に寄与することを目的としている。 まず、グローブの操作性には指の長さと手掌周囲のフィット感が大きくかかわっていることから、フィット感と手の指長及び手掌周囲長との関連を明らかにしてフィット感の良いグローブの指長及び手掌周囲長の条件を明らかにしている。さらに、フィット感の良いグローブの操作性を評価し操作性の良いグローブの条件について考察している。 本申請論文は6章から構成されている。以下に各章の概要を示す。 第1章では本研究の背景、目的、本研究の対象と位置づけ、本論文の構成について述べた。 第2章では臨床現場の歯科衛生士を対象に、グローブのフィット感の実態およびグローブのフィット感の良し悪しが操作性に与える影響を把握するために質問紙調査を行った。歯科衛生士のグローブの指でのフィット感をみると指長がフィットしているのは約5割から6割であり、指先が余る人が約3割から4割、グローブの方が短いとする人は約1割であることが判明した。歯科衛生士においてグローブの着用によって仕事の操作性困難を感じている人は約5割であった。 またグローブの着用による仕事の操作性困難を感じている人は感じていない人よりもグローブのフィット感の悪い人の割合が有意に高かった。指長のフィット感の悪さと操作性困難との間にも相関関係が認められており、グローブの指長のフィット感が仕事の操作性に影響を与えていると示された。 第3章ではフィット感の良いグローブの指長と手掌周囲長を示すために、グローブと被験者それぞれの指長と手掌周囲長を計測して、両者の差を求めた。その差と被験者の主観的評価から得たグローブのフィット感との関連を検討した結果、フィット感が良いグローブの指長の割合は、拇指では90%~93%、示指では96%、中指では100%~103%、薬指では97%~101%、小指では85%~95%であった。グローブの指長の割合は、やや短めからやや長めの間でフィット感が良いと評価されていた。手掌部については、手掌周囲長の割合が80%~110%のグローブできつくないと評価されていた。 第4章では操作性に優れたラテックスグローブの指長の割合を示すことを目的に、指長の割合の異なるラテックスグローブ(指長よりもやや短い95%、指長と同じ100%、指長よりもやや長い105%)のつまむ操作の操作性を評価し比較した。その結果、細い鋼線をつまむ際は、指の動きを制限しにくい指長よりやや長目のFL105%グローブがつまみやすいことと、物を把持することが主となる作業の際には指先のぴったりしたFL100%グローブの操作性が良いと考えられた。また、主観的評価では指を動かしやすいとの評価が高かったのはFL100%グローブとFL105%グローブであり、指長より短いFL95%グローブは指の動かしやすさの評価が低いことが分かった。指長より短いFL95%グローブはつまむ操作特に細い鋼線をつまむ際の評価が低かった。従って、指長よりも短いグローブは指の動きを制限して操作性を低下させる恐れが高いと指摘できる。 第5章ではつまみ操作の操作性の良いグローブの指長と手掌周囲長の選択指針を示した。 第6章では各章で得られた知見をまとめて本論文の結言とした
アルツハイマー病モデルマウスにおけるニューロン新生制御および記憶・行動障害に関する研究
京都工芸繊維大学博士(学術)アルツハイマー病は,記憶障害などの認知機能障害を主な臨床症状とする進行性の神経変性疾患であり,アミロイドβタンパク質(Aβ)を主要構成成分とする老人班の沈着,神経原線維変化,およびニューロンの脱落を病理学的な特徴としている.アルツハイマー病患者では認知機能障害の他にBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)と呼ばれる行動異常および精神症状が認められ,患者および介護者のQOLを大きく低下させる要因となっている.アルツハイマー病の発症機序は不明な点も多いが,脳内に蓄積したAβがアルツハイマー病発症の中心的な役割を果たしているとする「アミロイド仮説」が広く支持されている.ヒトを含む哺乳動物は海馬歯状回の顆粒細胞下層と側脳室外壁の脳室下帯において,一生を通してニューロン新生が起こっていることが明らかとなっている.しかし,アルツハイマー病の病態への関与については統一された見解が得られていない.そこで本研究は,家族性アルツハイマー病の原因遺伝子として同定されたアミロイド前駆体タンパク質のスウェーデン変異とプレセニリン1の欠損変異を過剰発現させたAPPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスを用いて,アルツハイマー病の発症に中心的な役割を果たしているAβの蓄積と,ニューロン新生および記憶・行動障害との関係について検討を行い,以下の新知見を得た. 第一章 APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスを用いた海馬におけるニューロン新生に関する研究 ELISA法を用いて脳内Aβ蓄積量を測定した結果,APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは加齢に伴って脳内Aβ (1-40) およびAβ (1-42) 蓄積量の増大を示した.蓄積しているAβ分子種を比較したところ,Aβ (1-42) はAβ(1-40) と比較して高い蓄積を示した.さらに,雌性APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは雄性APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスと比較して,高い脳内Aβ蓄積を示した.免疫組織化学によりAβの沈着を検討した結果,5ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは.海馬や大脳皮質においてわずかなAβ沈着しか観察されなかったのに対し,9ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは,海馬や大脳皮質において多数のAβ沈着が観察された.少量の脳内Aβ蓄積と海馬でのわずかなAβ沈着を示した5ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスと,多量の脳内Aβ蓄積と海馬での多数のAβ沈着を示した9ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスを用いて,海馬歯状回の顆粒細胞下層に存在する神経幹/前駆細胞のニューロン新生能を抗BrdU抗体および抗DCX抗体を用いた免疫組織化学により検討した.その結果,5ヶ月齢ではAPPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスと野生型マウスにBrdU陽性細胞数およびDCX陽性細胞数に有意な差はなかったのに対し,9ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは野生型マウスと比較してBrdU陽性細胞数およびDCX陽性細胞数の有意な低下を示した.よって,9ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスでは海馬におけるニューロン新生が障害されていることが明らかとなった.また,APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスの海馬におけるニューロン新生の障害に雌雄差は認められなかった.以上の結果より,APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは雌雄ともにAβの蓄積に伴って海馬歯状回の顆粒細胞下層におけるニューロン新生が障害されることが明らかとなった. 第二章 APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスを用いた二つの脳領域におけるニューロン新生制御に関する研究 9ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスを用いて,2つのニューロン新生領域である側脳室外壁の脳室下帯と海馬歯状回の顆粒細胞下層における神経幹/前駆細胞の増殖および短期的生存について抗PCNA抗体および抗BrdU抗体を用いた免疫組織化学により検討した.その結果,PCNA陽性細胞数はいずれのニューロン新生領域においてもAPPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスと野生型マウスで有意な差はなかった.一方,BrdU陽性細胞数は脳室下帯で有意な差がなかったのに対し,顆粒細胞下層ではAPPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスにおいて有意な低下を示した.PCNAはニューロン新生の増殖過程を,BrdUはニューロン新生の増殖および短期的生存過程をそれぞれ反映するマーカーであると考えられることから,9ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスの脳室下帯における神経幹/前駆細胞の増殖および短期的生存は正常であるのに対し,顆粒細胞下層における神経幹/前駆細胞の増殖は正常であるが短期的生存は障害されていることが示唆された.二つのニューロン新生領域におけるAβ沈着について免疫組織化学により検討した結果,9ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスの海馬では多量のAβ沈着が観察されたのに対し,側脳室周囲や線条体,脳梁ではAβ沈着はほとんど観察されなかった.以上の結果より,APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスはAβ沈着に伴いニューロン新生過程のうちの短期的生存が障害されることが示唆された. 第三章 APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスを用いた記憶障害および行動異常に関する研究 小動物運動解析装置を用いて自発運動量を測定した結果,5ヶ月齢雄性APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは野生型マウスと比較して自発運動量に有意な差はなかったが,5ヶ月齢雌性APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは自発運動量の亢進を示した.また,9ヶ月齢APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは雌雄ともに自発運動量の亢進を示した.ロータロッド試験により運動協調性を評価した結果,5ヶ月齢および9ヶ月齢のAPPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは,雌雄ともに運動協調性の障害を示さなかった.モリス水迷路試験により空間記憶力を評価した結果,APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスの空間記憶力は雌雄ともに5ヶ月齢の時点で正常であったが,9ヶ月齢で障害が認められた.以上の結果より,APPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスはAβの蓄積に伴って空間記憶障害およびBPSD様の行動異常を示すことが明らかとなった. 本研究によりアルツハイマー病モデルAPPswe/PS1dE9トランスジェニックマウスは,Aβの蓄積に伴ってニューロン新生の障害,空間記憶力の低下およびBPSD様の行動異常を示すことが明らかとなった.本研究の成果はアルツハイマー病の発症機序および病態の解明に寄与するものであり,新たな治療法の開発など臨床応用に結びつく有用な基礎的知見を提供するものである
Structural and functional analysis of Drosophila organic solute carrier partner 1
京都工芸繊維大学博士(学術)OSCP1 is known as a transporter of various organic solutes into cells and also is reported to act as a tumor suppressor protein. Although the possible roles of OSCP1 have been studied with mammalian cell lines, its biological significance in living organisms is not fully understood. In this thesis, I utilized Drosophila melanogaster model for functional analysis of Drosophila OSCP1 (dOSCP1). In the present study, I found that dOSCP1 could form a dimer and it localizes not only in the plasma membrane but also in the nucleus, endoplasmic reticulum (ER), Golgi apparatus and mitochondria. Moreover, induction of rough eye phenotype was observed in adult dOSCP1-overexpressing flies, likely resulting from a delay in S phase progression and induction of caspase-dependent apoptosis followed by compensatory proliferation. ER stress was also observed in salivary gland of dOSCP1-overexpressing cells. On the other hand, in this thesis, I demonstrated that knockdown of dOSCP1 induced caspase-dependent apoptosis followed by a compensatory proliferation and ROS generation in eye discs. The induction of apoptosis appears to be associated with down-regulation of the anti-apoptotic Buffy gene and up-regulation of the pro-apoptotic Debcl gene. These effects of knockdown of dOSCP1 lead to mitochondrial fragmentation and degradation, and a shortcoming in ATP production. Furthermore, knockdown of dOSCP1 negatively regulated the EGFR signaling and caused a defect in the cone cell and pigment cell differentiation of pupal retinae. My data indicate that dOSCP1 involves in multiple biological processes such as apoptosis, proliferation, differentiation and ROS generation, and ER stress during Drosophila development. The dOSCP1-knockdown flies used in this thesis should provide a useful tool for elucidating functions of OSCP1, pathological mechanisms of the associated diseases, and also finding drug candidates to treat various diseases in which OSCP1 is involved
現代的なリズムのダンスにおける楽しさと感情表現に関する研究
京都工芸繊維大学博士(学術)本研究では,現代的なリズムのダンスにおける楽しさと感情表現について明らかにするため,演者の心理および表現動作よりダンスパフォーマンスを評価することを主目的とした.その主問題を解決するため,下位問題として,①ダンスの楽しさに関する尺度を作成し,その評価実用性を検討すること,②多様な感情によるダンスステップの表現動作を検証すること,③楽しさの有無によるダンスステップの表現動作を検証すること,を設定した. はじめに,演者が抱く楽しさについて,内発的動機付けにおける楽しさに着目し,フロー理論を用いて日本語版Flow Sate Scaleを改編したダンス・フロー・スケールを作成した.そして,高校生を対象に体育授業でのダンス発表時のフロー体験を分析した結果,ダンス発表時の楽しさは,「ダンススキルの有能感」「夢中」「自己意識の喪失」で構成されていた.さらに,評価実用性の検討としてダンス経験の有無と指導スタイルの違いについて分析した結果,体育授業外でのダンス経験がある者が体育授業のみの者に比べ「ダンススキルの有能感」「夢中」「自己意識の喪失」が有意に高い値であった.また,指導スタイルの違いについては,ダンス専門教員による一斉指導の演技と生徒主体の創作演技による群で検討した結果,「ダンススキルの有能感」では差はみられなかったが,「夢中」「自己意識の喪失」では一斉指導群の得点が有意に高い値であった.これらの結果より,生徒が体育授業のみで高いフロー体験を得るには,ダンス単元を継続して実施することが生徒によりフローを経験し,生涯にわたってダンスを行う資質を育む上で重要であること.そして,生徒が創作した作品を発表しフローを体験するには,指導者は生徒に今ある技能や能力を用いて創作させるのではなく,生徒にとってふさわしい挑戦課題見つけ,適切な助言や支援を行うことが必要であると示唆された. 次に,多様な感情によるダンスステップの表現動作を検証した.ヒップホップダンスのステップであるニュージャックスイングについて,楽しさ,悲しさ,怒りの感情表現を三次元動作解析にて動作特徴を分析した.仮説として,感情の違いによる表現は脚の運びによって行われ,異なる動作特徴があると設定した.説明変数として時空間に関する34変数を設定し,動作局面4局面と姿勢局面4局面の8局面に分類して分析した結果,特にパンチを打つ動作で感情が判別された.そのため,ニュージャックスイングにおける感情表現は主に上肢で行われており,仮説を一部否定するものであった.特に楽しさの表現は悲しさに比べ左右の上肢や下肢の動きが速く、怒りの表現は悲しさに比べて左肩関節スピードが速く,肘関節間距離や右足関節角度が大きいことが明らかになった. さらに,ニュージャックスイングにおける楽しさの有無による表現動作を検証した.仮説として,楽しさの表現は脚の運びによって行われ,異なる動作特徴をもつと設定した.三次元動作解析を行い判別分析および動作特徴量を明らかにした結果,楽しさの表現の特徴は,無感情に比べて両足ジャンプによる横移動に伴う両手の開きが速く,特に左肘関節と左手首に関連があったことが明らかになった.この結果は,多様な感情による表現と同様に仮説を一部否定するものであった.したがって,ニュージャックスイングにおける多様な感情や楽しさの感情表現は,主に上肢で行われていたことから,上肢は感情表現を行う上で重要であり,表現指導において指標になることが示唆された. 本研究で得られた結果は,ダンス指導や実践場面において感覚的にとらえられていた楽しさについて実施者の内面性および外面性から客観的に評価できたことに意義がある.また,本研究で得られた知見は,今後の舞踊教育に寄与するとともに,現代的なリズムのダンスにおいて新たな視座を与えるものだと考える