滋賀県立大学「学術情報機関リポジトリ
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絶食及び再摂食時の栄養動態に関する研究
健康の維持増進のみならず生命活動の維持には,エネルギー代謝の恒常性維持が重要である.エネルギーバランスが負に傾く要因の一つとして,慢性疾患,摂食障害,ハンガーストライキ,災害などによる絶食がある.絶食が続くと,糖質,脂質,タンパク質の順に主要エネルギー源として利用される.ビタミンは絶食時の各段階および再摂食時のエネルギー産生栄養素の代謝に補酵素として作用するうえ,微量栄養素であるため枯渇しやすいという特徴をもつ.本学位請求論文では,実験動物を用いて絶食および再摂食期間中の各臓器におけるB群ビタミンの経時的変動を網羅的に解析することにより,絶食および再摂食がB群ビタミン栄養状態におよぼす影響を明らかにすることを目的とした.
ラットにおける短期および長期の絶食により,ビタミンB12およびナイアシン以外の6種のB群ビタミンの血中濃度が低下すること,胃および骨格筋ではほとんどのB群ビタミン の濃度が低下するが,脳は影響を受けにくいことなど, B群ビタミンおよぴ臓器によって 異なる濃度変化を示すことを明らかにした.体内のB群ビタミン濃度が低い状態から絶食 を行っても,肝機能,脂質代謝,タンパク質代謝等の血液指標および体重減少にさらなる悪影響をおよぼすことはなかった.この結果より,B群ビタミンの積極的な摂取は絶食に よる悪影響を緩和する手段にはなり得ないことを見出した.
再摂食時のエネルギー産生栄養素の摂取盤の違いがB群ビタミン栄養状態におよぼす影響を明らかにするため,短期および長期絶食後のラットに高タンパク質食,高脂肪食,対照食を摂取させた.高タンパク質食摂取期間中にはビタミンB₆の尿中排泄量が,高脂肪食摂取期間中にはパントテン酸の尿中排泄量が抑制され,各エネルギー産生栄養素の代謝に必要なB群ビタミンの要求量が高くなる可能性を見出した.また,高タンパク質食摂取によって腎機能の低下が,高脂肪食摂取によって著しい体重回復が認められたことから,再摂食時にはエネルギー摂取が重要であり,高脂肪食が適する可能性を見出した.
本研究により,絶食および再摂食時におけるB群ビタミンの動態パターン,影響を受けやすい/受けにくい臓器を網羅的かつ詳細に明らかにした.本研究の知見は,ヒトにおける絶食および再摂食時のB群ビタミン栄養状態を解明するきっかけになるものであり,災害時などの栄養管理に繋がることが期待できる.人文論第18
電離気体プラズマのアンテナ応用に関する理論構築と実験検証
本論文は、電離気体プラズマのアンテナ応用として、プラズマアンテナおよびプラズマクローキング(電磁波の散乱抑制)技術について、理論解析、数値解析および実験検証を行った研究(以下、本研究と呼称する)をとりまとめたものである。まず、第1章で、研究の背景について説明している。本研究が対象とするプラズマアンテナおよびクローキング技術について、従来研究を俯瞰しながらその特徴や課題について論じ、本研究の学術的意義と産業応用への可能性を明らかにするとともに、本研究の目的を示し、本研究全体の方向付けを行っている。次に、第2章で、プラズマと電磁波の間に相互作用がないという条件のもと他励式プラズマアンテナの放射特性を理論的かつ実験的に論じている。プラズマおよびアンテナ理論から導かれる解析式とFDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いた電磁界解析によって、放射特性とプラズマパラメータの関係を評価し、プラズマアンテナの放射特性が、電子の弾性衝突周波数とプラズマ断面の総電子数との比、および電磁波の周波数とプラズマ断面の総電子数との比の2つのパラメータで決まることを明らかにした。また、他励式プラズマアンテナを試作し、実験結果と理論解析結果との定量比較を行うことによって、以上の評価の妥当性が示されている。第3章では、プラズマと電磁波の間に相互作用がある自励式プラズマアンテナについて、特に自励式で代表的に用いられる表面波励起プラズマアンテナの放射特性を理論的かつ実験的に論じている。プラズマと電磁波の相互作用を考慮するため、第2章で用いたFDTD法にボルツマン方程式および拡散方程式を組み込み、放射特性とプラズマパラメータの関係を計算し、プラズマが放電管端部に未達の場合には入力電力は主にプラズマの体積増加に消費され電磁波の放射が少なく、一方、プラズマが放電管端部に到達した後は入力電力が電子密度および電磁波の放射増加につながり、プラズマがアンテナとして振舞うことを明らかにした。また、自励式プラズマアンテナを試作し、実験結果と理論解析結果との定量比較によって妥当性を示すとともに、金属アンテナとの比較によって、プラズマアンテナの長所と短所およびその活用法について述べている。第4章では、表面波励起プラズマアンテナの動作原理、特に表面波プラズマの従来研究と第3章で得られた結果の相違点を解明することを目的に、表面波励起プラズマアンテナの放射特性の解析的な定式化に取り組んでいる。従来の表面プラズマとの違いとして放電管の有限性に着目し、従来の表面波プラズマの理論を放電管が有限の場合に拡張することで数値計算の結果を再現することに成功した。また、定式化した解析式を用いて、表面波励起プラズマアンテナでは放電管端部にプラズマが到達することで後進波が発生し、その結果生じるプラズマの抵抗成分の減少とアンテナの放射抵抗の増加の相乗効果によってアンテナ利得が増加し、表面波プラズマがアンテナとして動作することを明らかにした。第5章では、クローキング媒質としてのプラズマの有用性検証を目的に、特にそこに内在する電子と中性粒子との間の衝突性に着目し、クローキング技術の一つである散乱相殺へのプラズマの適用性を理論的かつ実験的に論じている。散乱理論に基づく理論解析では、散乱長のプラズマパラメータ(電子の弾性衝突周波数、電子プラズマ周波数)依存性を二次元表示することにより、Tonks-Dattner共振と散乱相殺の関係を明らかにするとともに、衝突性プラズマでも散乱相殺が可能であることを示している。また、FDTD法を用いた電磁界解析により、プラズマ中に誘起される電流による散乱相殺の発生、および散乱相殺の非共振性を明らかにするとともに、実験的に数値計算の結果が再現されること、および電磁波の錯乱が最大8dB抑制されることを実証した。最後に、第6章では、本研究で得られた成果を総括するとともに、本研究が契機となって広がる学術領域と望まれる工学的進展について述べている。工課第16
腸内細菌パターンに影響を及ぼす因子の探索
近年の研究により,腸内細菌叢が生活習慣病の発症やメンタルヘルスの変化などに深く関与することが明らかとなってきた.腸内細菌叢は食事の影響を受け,加齢によって変化する.しかし,日本人の食習慣は諸外国と異なる特徴をもつことに加え,高齢者以外の日本人の腸内細菌パターンは明確に示されていない.このため,様々な年齢層の日本人における食習慣とストレス状況を把握し,腸内細菌叢との関係を明らかにすることが重要である.本学位請求論文では,若年日本人を対象とした横断研究を実施し,腸内細菌パターンを明らかにし,そのパターンの違いに影響をおよぼす栄養素およびストレスとの関係を明らかにすることを目的とした.
若年日本人61名を対象とした横断研究において,主成分分析法により腸内細菌パターンがBifidobacteriumとLactobacillalesを多く含むパターンおよびBacteroidesを多く含むパターンに分類されることを見出した.両パターンの間には食物繊維,きのこ類,豆類の摂取量およびストレス指標である唾液コルチゾール値が異なることを明らかにした.以上の結果より,若年日本人の腸内細菌パターンの形成には食事とストレス状態が関与する可能性が示されたことから,日本型の食事形式と腸内細菌パターンとの関係について解析した.日本食スコアに基づいて対象者を分類した結果,日本食スコアの高い群ではBacteroidesが多く,日本食スコアの低い群ではPrevotellaが多いという,食事形式の違いによって腸内細菌パターンが異なることを明らかにした.特に,日本食の主食となるめしの摂取量がPrevotellaの占有率に影響をおよぼすことを見出した.
栄養素摂取量と腸内細菌パターンとの詳細な関係を明らかにするため,若年日本人28名を対象とした横断研究を実施したこの研究においても,若年日本人の腸内細菌パターンは上記と類似の2パターンに分類された.食物繊維の摂取量が腸内細菌パターンに関係しており,豆類の食物繊維摂取量とBifidobacteriumが,きのこ類の食物繊維摂取量と Clostridium cluster IVが正の相関関係を示すことを見出した.
本研究により,若年日本人の腸内細菌パターンが二つに大別され,諸外国の腸内細菌パターンとは異なることを明らかにした.さらに,腸内細菌パターンはストレス状況と食事と関係しており,日本食型食事および食物繊維の供給源となる食品の摂取量の影響を受ける可能性を明らかにした.本研究の知見に基づき,食事によって腸内細菌パターンを好ましいパターンに制御することにより,健康の維持増進に繋がることが期待できる.人文課第38
化学強化用アルミノホウケイ酸塩ガラスのクラック発生率と圧縮応力層の形成への各種成分の影響
ガラス材料は高い透明性、化学的耐久性、硬度など優れた特性を多く有しているが割れやすいという欠点がある。化学強化ガラスは、ガラス表面のアルカリイオンを交換しイオン半径の違いによって圧縮応力を生じさせることで、ガラスの破懐に繋がる引張り応力に拮抗させ、強度を向上させたガラスである。化学強化は薄い肉厚でも強化が可能な数少ない技術であることから、コップからスマートフォンのカバーガラスまで多岐に渡って活用されている。 ガラス表面のクラックについても種々の研究が行われている。ガラスは完全な弾性材料であり塑性変形は生じないと考えられてきたが、圧子の圧入などの場合には塑性変形を示すことが分かってきた。先行研究では、ガラス組成や構造によってクラック発生率が異なることが報告されているが、具体的な強度との関係は示されていない。 そこで、本研究では化学強化前のガラス表面にクラックが生じ難ければ、化学強化後の ガラスの強度は安定すると考え、実際にクラックが発生し難いガラスを探索し、強度試験を実施して検証を行うことで組成を最適化することとした。 第1章では、序論としてガラス材料に関する構造、強度、強化方法に関する従来の研究を述べ、本研究でどのような課題に取り組むかを示した。 第2章では、まず、クラック発生率の低いアルミノホウケイ酸塩ガラス(ALBS、13Na₂O-5K₂O-7MgO-12B₂O₃-15Al₂O₃-48SiO₂ (mol%))を作製し、市販の窓などに用いられるソーダライムガラス、化学強化用ガラスのアルミノケイ酸塩ガラス2種類と合わせた計4組 成についてクラック発生率が化学強化後の強度に与える影響を各種強度試険により調査 した。その結果、化学強化前のクラック発生率が低いALBSガラスは、加傷後に化学強化を行ったサンプルでの4点支持曲げ強度試験において、他のガラスと比較して強度の高い安定性を示した。よって、化学強化前にクラックが発生し難いガラスは、実際の生産工程においても埃や金属等との物理的接触に伴う表面のクラック発生が減少し、化学強化後の強度安定性が向上することが示された。 第3章では、よりクラック発生率が低いガラスの創出を目指し、クラッラック発生率の組成依存性と、その原因について調査を行った。ALBSガラス組成を基本に各5成分(Al₂O₃、B₂O₃、Na₂O、K₂O、or MgO)の含有量をSiO₂と置換することで段階的に変更した。測定の結果、クラック発生率はポアソン比と相関を示し、その値が2.5を超えるとクラック発生率が急激に上昇することが確認された。さらに、ラマン分光法でガラスの分析を行い、Si周りの架橋酸素の密度(Q種の比)を求めた。クラック発生率はSi周辺の架橋酸素の密度が高くなるほど低下する傾向が確認された。なお、B₂O₃含有量を変更した系では、Q種の比が含有量に対してほとんど変化しなかったがクラック発生率は組成依存性を示した。これは、アルカリ金属イオンの含有量が多く(約18 mol%)、SiO₂含有量の少ない(約50mol%)本組成系においては、ホウ素を含んだリング構造の変化がクラック発生率に大きな影響を及ぼしているためと推測された。 第4章では、イオン交換(化学強化)のし易さにB₂O₃が与える影響を調査した。B₂O₃の含有量を変更したサンプルを規格化した温度で溶融KNO3中に8時間浸漬させイオン交換をおこなった。交換後の断面を電子線マイクロアナライザーを用いた線分析で測定しK+の濃度分布を求め、相互拡散係数Dと活性化エネルギーを算出した。本組成系のガラスの活性化エネルギーはいずれの組成比も、ソーダライムシリケートガラスなどの値と比較して非常に低く、化学強化向きのアルミノシリケートガラスと同程度の値を示した。部分モル体積から算出したAl₂O₃の体積分率からはガラス中にAlO₄を主とする高速な拡散経路が存在していると考えられた。一方でB₂O₃含有量の増加とともに拡散係数は低下する傾向にあり、これは拡散経路の周辺にアルカリイオンの移動を阻害する非架橋酸素などの因子が増加するためと推測された。溶融温度、イオン交換速度、および機械的性質を考慮すると、4~6 mol%の比B₂O₃を含むときに化学強化用ALBSガラスの組成を最適化できることが判った。 第5章では総括を述べた。本研究では化学強化ガラスにおける重要な因子として、イオ ン交換の性能以外にクラック発生率も重要であることを見出した。さらに、基本組成より もクラック発生率の低い組成の探求を行い、構造的な要因との結び付けを行った。ホウ素 の化学強化への悪影響という従来の報告とは異なり、実用的な溶融性とイオン交換性能を 両立させながら、一定量のホウ素を含有させることの有効性を示した。工課第19